精神分析

精神分析はジークムント・フロイト(1856-1939)が神経科の医師としての治療から生み出した心の治療法であり、精神分析が提唱する無意識を含めて人のこころを理解していく人間観は20世紀最大の知の発見に数えあげられています。現在ある心理学、心理療法のほとんどは元は精神分析から生まれたといえます。

欧米では精神分析は心の治療法としての確固たる地位を確立しており、このオフィスのように治療者のプライベートオフィスで治療を行うスタイルが一般的です。日本では精神分析が十分根付いてこなかった歴史があり、プライベートオフィスで行う精神分析治療は最近になってようやく少しずつ増え始めている段階です。

精神分析では、患者さんは落ち着いた面接室の中で、椅子に腰かけるか、カウチソファーに横たわるかし、くつろいだ姿勢でいます。この状態で患者さんは心に思い浮かぶことをそれに抑制をかけたりせずなるべく全て話すことが求められます。最初は慣れませんが、治療がすすんでくると患者さんの心は自然と治療に必要な素材を頭に思い浮かべるようになるものです。そうして意識では意図せず話された患者さんの言葉から、患者さんが意識、無意識全体で今どういう心について語ろうとしているのかに耳を傾けて行きます。手がかりは話される内容だけではなく、あえて話さなかったことや言い間違えたこと、話す話し方、声の抑揚、全体の雰囲気、など様々です。また治療が始まると治療に関係した夢をみるようになることが多く、患者さんからの夢の報告も重要な手掛かりになります。そうした患者さんの語り全体から患者さんの心の真実について、例えば秘められた空想や願望、感情などについて、患者さんが言葉として発見できることを援助していきます。こうしたことを毎回50分かけて続けていきます。

治療面接をこつこつ積み重ね困難な作業を越えていくうちに患者さんは、今まで心の真実を言葉にして自分自身を考えることがもつ健全で生産的な力をいかに自分が使わず、むしろ不信を抱きそれを避けさえしてきたか気づかされることに多くの場合なります。そして、直視をさけてきたさまざまな偏向した空想や子供時代に根をもつ間違った思い込みなどが人知れず自分を縛ってきたことにも気づくようになっていきます。心を言葉にしていくことはこうした隠された空想を解除して心をより自由にしたり、自分の心も他者の心もより考えられるようになったりと他にも様々な変化、成長をもたらします。そして何よりも、心の大切な部分について言葉を使って治療者とコミュニケートする力を拡大すること自体が社会の中で自分の幸せを追求し創造的生産的に生きていく力を質的にも量的にも変化させてくれるのです。

生活全般にいきわたるこうした心の変化が起こるためには、精神分析が生活の一部としてしっかりと組み込まれ、時間をかけて何度もセッションを行っていく必要があります。そのため精神分析の治療期間は年単位になります。頻度については、欧米で行われてきた本来の精神分析では週4~5回で行いますが、最近ではより少ない頻度で行われることも多くなってきています。個々のケースによって最低限必要な頻度は変わってきますが、精神分析という治療の効果が得られるためには、少なくても週1回の頻度は必要です。